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2021年4月 9日 (金)

シニア世代こそノマドライフにふさわしい 映画「ノマドランド」

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 定住の場所を持たずに流浪するノマド(漂泊の民)というライフスタイルが知られるようになってきました。
 ひとつの職場に縛られずに働く人々はノマドワーカーなどと呼ばれ、僕らフリーライターも喫茶店などを転々としながら原稿を書いているのでそのうちのひとつでしょう。

 本作(映画)「ノマドランド」は家を失った車上生活者たちの映画というふれこみなので、名作「怒りの葡萄」のように貧困社会を深刻に描いた作品ではないかと予想しつつ観始めました。
 たしかに小さな町の採掘場の閉鎖、全町民の立ち退きという深刻な事情が物語の発端です。
 時代背景は2011年で数年前のリーマンショックが尾を引いていた時期。映画の中ではサブプライムローン破綻についても語られます。


 一台のヴァンを駆って経済が破綻した街を離れるのはフランシス・マクド―マンド演じる高齢の女性。車はおんぼろですが自らの手で改造をかさね、ヴァンガード(先駆者)という勇ましい名前もついています。
 愛車の名前からも想像がつくように彼女は非常にポジティブで前向き、ミスからの境遇を嘆いたりすることもありません。住むところを追い出され仕方なくというより、むしろ積極的に旅に出た印象です。この映画からあまり悲壮な雰囲気が漂わないのはひとえに彼女の強さがあるからでしょう。



 街を出た彼女が身を寄せるのは、一人前のノマド?になるための訓練所。アメリカにはそんなものがあるのかと驚きです。
 この訓練所ではベテランノマドの指導のもと、集まってきた人々が放浪生活の心得やハウツーを学ぶのです。

 アメリカでは人里離れたコミューンで自給自足の共同生活を理想とするヒッピー文化やDIY精神が1960年代ぐらいから息づいていて、このノマド訓練所もその流れの延長上にあるのではと思われます。

 映画の前半はこの訓練所の暮らしぶりがドキュメント風に紹介され、まるでNHKの「ドキュメント72時間」を見ているようです。
 訓練所だけではなく、車内で寝泊まりできるトレイラー・パーク、
住居としても重要なRV車の即売会なども映画に登場し、アメリカでは快適で安全な放浪生活のための仕組みがきちんと用意されているのだなと感じさせられます。お金も住む場所も十分でない弱者が結束し助け合うシステムが確立されているのです。
 あちらの国土には未開の大平原が広がります。過酷な自然と向き合う人々の心には当たり前のように助け合い精神が芽生えるのでしょう。日本でも大きな災害のときにボランティアが活躍するように。

★★

 「ノマドランド」にはまた、若者の姿がほとんど出てきません。ノマドのほとんどが人生の終盤にさしかかった人たちです。
 むしろそういう社会の第一線を退いた人たちにこそノマドな生き方はふさわしいのではという気がします。若い世代はまだまだ現実の生活で精いっぱいでしょう。

 老いたノマドたちから放浪の寂しさはうかがえません。焚き火を囲みながらこれまでの人生を語ったり、根無し草のような暮らしをそれなりに楽しんでいるように見えます。それぞれ人生の荒波を乗り越えてきた強さと余裕でしょうか。もちろん死を間近にしたり健康に不安を感じたりはつきものですが。
 孤独を怖れずに前向きに生きる人たち、彼らをけして弱者とは言いきれないでしょう。

★★★

 あちらの国では仕事をリタイアしたシニアたちが、住んでいた家を処分したりして大型のキャンピングカーを買い、国じゅうをさすらう旅に出ることも多いそうです。
 そういうキャンピングカーを向こうではモーターホームとも呼ぶとか。車ではなくエンジンとタイヤのついた家。これなら車上生活などと誰にもバカにされません。発想の逆転です。

 社会の一線を退いた人々が放浪の旅を楽しみ、そのためのおぜん立ても準備されている、そうしたお国柄ではノマドスタイルも今に始まったことではなく、車上生活もあまり悲惨な印象はないのかもしれません。

 「パイオニア精神はアメリカの伝統」とノマドたちは語ります。カラッとした国民性、広大な土地、豊かな大自然がそろったアメリカならではの話で、日本ではなかなかこうもいかないかもですが。

 コロナ以降、世の中ではリモートワークが普及し、組織からの個の自立、地方への移住、キャンプブームなども広まりつつあるので少しずつあちらに近づいていくのかもしれません。

 映画を観ながらこの先、自分もひとつの場所に縛られずに生きることは可能だろうかと夢想してしまいました。その気になれば意外と難しいことではなさそう。この作品を見ているとそんなポジティブなパワーがわいてきます

 「ノマドランド」は社会問題をシリアスに訴えるというより、癒し系の味わいにあふれた映画です。「あなたの人生を変えるかもしれない、特別な作品」というキャッチコピーのとおり、これからの生き方を真剣に考えてみたくなりました。


written by シオ・コージ(塩こーじ)
元記事 http://note.com/sio_note/n/n970b80dc2086

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